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北海道データアーカイブの意義と展開

データアーカイブをめぐる状況
 

 林知己夫や飽戸弘といった社会科学者が早くからデータアーカイブ構想を唱えていたことはよく知られているが、さまざまな不幸な経緯もあって、20世紀末まで日本において社会科学分野における本格的なデータアーカイブ(DA)は成立しなかった。 それに対して、『社会調査の公開データ』などでも紹介があるように、欧米には世界的に有名なデータアーカイブが早くから存在していた。International Federation of Data Archives(IFDO) 、Council of European Social Science Data Archives (CESSDA )、米国ミシガン大学のICPSR(Inter-university Consortium for Political and Social Research) 、米国コネチカット大学のThe Roper Center などが著名である。とりわけ欧州においては、主要国には必ずナショナルセンター的なデータアーカイブが設置されているといっていい状況にある。こうした諸機関をモデルにしたSSJDAの成功により、データアーカイブという用語は社会科学のみならず政府・世論調査業界にも普及し、厳密にはデータアーカイブとは呼べない「データ所在情報の集積所」程度のものでも「データアーカイブ」と称している場合もある(たとえば日本新聞協会の「新聞広告データアーカイブ」 )。

 政府機関においても、平成11年閣議決定された「国の行政組織等の減量、効率化等に関する基本的計画」 に基づき、平成13年には「統計調査集計結果のデータベース化、共有化及びオープン化の推進について」という申し合わせが関係省庁間でなされ、総務省統計局を中心に「統計調査集計結果のデータベース化、共有化及びオープン化実施計画」が策定された。このうち「データベース化、共有化」をめざし「統計データ・ポータルサイト」 が開設されたことはよく知られているが、さらにオープン化という方針に関連して、国立社会保障・人口問題研究所 、労働政策研究・研修機構 などは、ウェブページ上に素データの公開を始めている。こうした動きは、データアーカイブという発想が日本国内でも受容され普及している、あるいはアーカイブ化を政府自ら進めざるを得ないほど調査環境が「悪化している」ことを端的に示す。

 また利用側からみても、データアーカイブに蓄積されたデータの再分析という研究課題の存在が広く認知されつつあり、SORDでもコンスタントにデータ利用の申し込みがある。また関西大学の間淵領吾氏がICPSRの利用方法についての丁寧なマニュアルを公開するなど 、若い研究者を中心にデータの再分析という手法が普及しつつあるといえよう。 このように急激に進んだデータアーカイブの正統化と普及の中で、SORDはナショナルセンター的なアーカイブに機能を譲渡したほうがよいという考え方も成立する。しかし一方、データは発掘をはじめると次々に出てくるという特性もある。これまで多くの社会調査が実施され十分な分析を経ないまま倉庫に眠ったり、廃棄されたりしているのだから、ナショナルセンターが全てを管理しきれないのは明らかである。現在のところ、日本においても各種アーカイブ・関連学会は中央に集中しているといってよいが、より小規模で地域貢献型・地方分散型のデータアーカイブがあってもよいのではないか。加えて、ナショナルセンターでないが故に果たすことができる積極的な機能も、以下のように複数あると考えられる。


地方分散型データアーカイブの意義
 
   第一に、地域を限定することにより、データセットの収集を「広く浅く」ではなく「狭く深く」行うことができるという点だ。調査の所在情報管理とデータ提供という機能にとどまらず、調査票原票および調査プロセス(資料整理基準・転記カード等、研究者と対象社会のエピステーメーを示すもの)も含んだデータの提供と分析、オーラル・画像情報も含めたマルチメディア情報の整理とリレーショナル表現までを考えている。特に重要な知見をもたらした調査研究については、調査/分析/考察のプロセスをトレースできる資料を検討することが非常に重要である。じっさい次のような指摘がある。「作業仮説の資料整理段階での具体化としての、聴取り調査の場合のケース・レコード整理基準、流し調査の場合の統計表作成にあたっての転記カード、統計表の表頭・表側の分類基準、さらには社会階層分類表、職業・業種分類表などの意味を、より重要視しなければならない...つまり、これらの資料整理基準・分類表などが、調査のプロセスのより進展した段階での作業仮説の一層の具体化であり、調査の結論を導きだす直接的前提条件になっている」『戦後日本の労働調査』(1970)。今日的には、インタビュー音声記録や映像など調査過程におけるマルチメディア素材の収集・保存と方法論の確立も検討課題に上ってこよう。

 
第二に、教育的機能である。教育機能は各地域に分散したほうが効果があることはいうまでもない。この機能に関しては、後述のように「国家政策の実験場」であったという歴史的経緯を持つ北海道は有利である。全国的にみて高く評価される農村調査・産業調査など、広範囲の調査研究が実施されてきたのはいうまでもない。だが、これらの調査がデータベースとして集積され、次世代に引き継がれるといった試みはされていない。社会学研究者養成のためのレビュー機能を果たすには、個別質問文のデータベース化が必要であり、また報告書・論文について、「日本社会学会文献目録」「科学研究費補助金研究成果概要データベース」「国立情報学研究所・学術雑誌目次速報データベース」等と連携させるサイト運用が課題となってこよう。さらに、重要な調査については、調査過程の資料も貴重な遺産だというとらえ方が必要である。これら過程の再発掘・再検討を通じてリサーチ・リテラシーを高めるという観点があってよい。ちなみに、アーカイブがこのような教育的機能を果たすようになれば、その担い手としてのデータ・アーキビストの養成についても考えねばならない。管理者の仕事に学会的意義を認め、社会調査の知識をもった専任(できれば常勤)の管理者を確保するような方策が検討されねばならない。このとき、第三点とも関連するが図書館情報学をはじめ他分野との連携の必要が生まれるし、社会調査士資格との関連でいえば、「データ管理学」「質問文史」「リサーチ・リテラシー」などの科目が成立しうるような研究蓄積が作り出されねばならない。

 
第三に、拠点機能を明確化すると、地域外の他のアーカイブ、あるいは地域内の他の主体との交流と連携を深めていくことができるという点だ。複数のアーカイブが各地に存在することで、連携と交流をはかり、社会学におけるアーカイブズ業界を形成していくことができる。他方、データセットを他の資料メディア(語り、映像、写真、地図など)とともに整理し再活性化することにより、地域史の見直し、「地域の記憶」の再構成につなげていくこともできよう。このことは、激しい産業変動の結果、生活の記憶が著しいスピードで失われる北海道の場合、とくに重要なことではないか。


SORD北海道データアーカイブの展開

1.調査目録の作成

 地域限定であるからこそ「狭く深く」充実させられる機能である。ナショナルセンターが日本の社会調査に関する網羅的・包括的目録を作るのは不可能だが、北海道のような特定のリージョンならば、網羅的目録を作成する程度の労力は、それほど大きな予算でなくても確保可能である。

 
この目録を作成するにあたっては、論文単位ではなく調査を単位とした再整理とDB化が必要になる。暫定的に、(中澤ほか 2004)において「北海道社会調査に関する文献目録(抄)」を作成したが、これは論文単位のものであり、こんご作業を加速しなければならない。この作業の一つのモデルは、さきに触れた『戦後日本の労働調査』である 。調査ごとにその理論的背景・調査の経緯・明示的暗黙的な仮説といった諸項目をコーディングし、その成果と意義を位置づけていく地味な作業を進めることになる。 このとき、できるだけオリジナル(他では入手しがたいという意味)な資料を尊重して集積していく方針をとりたい。専門の学者にとって「つまらない」記述に終始した調査報告であったとしても、特定の地区にとっては十分有益ということもありうる。地元にとって有益な情報の蓄積とデータベース化ということが、リージョン拠点の場合には高い優先順位を与えられる。

 
この「地域の記憶の保存」という意味では、自費出版や少部数出版の書籍・文書類の収集や、ドキュメンタリーなどの映像資料の所在情報蓄積などといった仕事が、リージョン拠点型DAの場合には視野に入ってくるだろう。

2.重要な個別データセットの収集・整理と再解釈作業

これは教育機能の一種を果たすものと位置づけることができる。過去に行われた重要な調査の原票を見るなどする過程で、調査の「息づかい」を知ることは、とくに大学院生にとって貴重な経験になるからだ。幸いSORDでは2004年度に小林甫氏から夕張データセットの提供をうけ、なお整理中である。具体的には資料を年次別・調査別に分類する作業、実際の論文にどのデータが用いられ/どのデータが用いられなかったかの対応づけを試みる作業、分析で用いられたデータ類の整理とリスト作りを行っている。こうした過去のデータとの格闘と再解釈という作業は、学問的伝統の継承という点でも有効な手段となるように思われる。こうした機能をパターン化して、大学院生向けのセミナーを開催するような案も、長期的には考えられる。

3.情報を「見せる」方法論の開発と他アーカイブとの交流

 この柱については未着手の部分が大きいけれども、文系なりの情報技術の使いこなし方があるのではないかと考えている。近年、htmlを突破口として文系人間がITを手軽に使えるようになったことの意味は大きい。他アーカイブとの交流についても模索してていきたい。

以上の記述は、中澤秀雄・新藤慶・西城戸誠・新國三千代・大國充彦・小内純子・祐成保志・高橋徹「北海道における「社会調査の社会調査」を目指して」(北海道社会学会大会報告、2005年6月)から抜粋しました